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福岡地方裁判所小倉支部 平成3年(ワ)465号 判決

原告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

児島仁

右代理人支配人

横田剛

右訴訟代理人弁護士

阿部明男

被告

小関徳子

右訴訟代理人弁護士

山上知裕

金弘正則

山喜多浩朗

本田祐司

主文

一  被告は、原告に対し、金四万六〇三九円及び内金二万三七九二円に対する平成二年一一月一三日から、内金一万八三一三円に対する平成二年一二月一一日から、内金一九六七円に対する平成三年一月一一日から、内金一九六七円に対する平成三年二月一二日からそれぞれ支払済みの前日に至るまで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二四万四六三九円及び内金一〇万九二三七円に対する平成二年一一月一三日から、内金一三万一四六八円に対する同年一二月一一日から、内金一九六七円に対する平成三年一月一一日から、内金一九六七円に対する同年二月一二日からそれぞれ支払済みの前日に至るまで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が電話料金の支払を求めるのに対し、被告が、右電話料金のうち、いわゆる有料情報サービス利用にかかる通話料については、被告の弟倉本隆幸が使用したものであり、被告には支払義務が存しないと主張して争っている事案である。

一本件の事実経過

1  被告は、原告との間に、昭和六三年一月八日次の内容の電話加入契約を締結した。

(一) 電話番号 六五一局二六三四番

(二) 被告は、基本料金及び契約者回線から行った通話料金を毎月一〇日締切り翌月一〇日限り支払う。

(三) 損害金 各月分の通話料の支払期日の翌日よりその支払日の前日まで年14.5パーセントの割合 (争いがない)

2  原告は、被告に対し、平成二年一〇月分から平成三年一月分までの電話料金として、別紙料金目録料金額欄記載の各料金の支払を、その支払期日欄記載の各支払期日を指定して請求したが、右料金のうち、平成二年一〇月分及び同年一一月分には、一般通話料のほか、有料情報サービス利用に係る情報料及び通話料が含まれている(争いがない)。

右原告の請求にかかる電話料金の内訳は、別紙電信電話料金内訳表のとおりである(なお、有料情報サービス利用にかかる情報料及び通話料のうち、同年九月一一日から一〇月一五日までの分については、原告の記録上情報料と通話料とが確定的に分計できる資料がなく、分計できた同年一〇月一六日以降の利用状況の実績に基づいて推定して分計しており、右表のダイヤル通話料の有料情報サービスにかかる通話料・情報料各①は分計できた分、同各②は分計できず実績から通話料及び情報料を推定して分計した分である。)(〈書証番号略〉、証人阿部末勝)。

3  被告は、原告との電話加入契約当初、電話機を父及び弟隆幸と同居していた自宅に設置し、被告自身は結婚のため平成二年四月一日転居したが、電話機は家族との連絡等のためそのまま残してゆくことにし、その後同年七月頃父らの居宅が同市同区泉台三丁目三一―二一―三〇四に移転したことに伴い電話機の設置場所も同所に移転させ、電話料金は被告が支払っていた。

被告は、同年一一月中旬頃、原告から同年一〇月分の電話料金が決済されていない旨連絡を受け、その料金が五三万円余りに上っていることから、原告に問い合わせたところ、有料情報サービスの存在及びその利用がなされていることを知らされ、弟隆幸(昭和四八年三月七日生まれ)を問い質したところ、同人が被告に無断で同サービスを利用していることが判明した(被告本人)。

4  原、被告間に適用がある電話サービス契約約款(以下「契約約款」という。)には、その一一八条において、契約者は、契約者回線から行った通話については、契約者以外の者が行った通話であっても、契約者において通話料の支払を要する旨の規定がある(争いがない)。

二争点

被告は、有料情報サービスにかかる通話料についても、契約約款一一八条を根拠に、一般通話料と同様支払義務を負うものであるか。

1  原告の主張の要旨

契約約款一一八条は、通話料の徴収対象者を一義的に確定することにより徴収事務の経費を最小限に抑え、低廉な料金で通信役務を提供する趣旨で設けられたものである。通話料は、契約者回線の使用料であり、契約者回線の使用がなされれば、通話内容に関係なく発生するものであり、有料情報サービスの利用についても、それに伴う契約者回線の使用という点では、一般通話と異質のものではなく、これについても右約款は適用されるものである。

また、有料情報サービスにおいては、情報提供は電話利用者と情報提供者間の情報提供契約に基づいて提供されるものであって、原、被告間の電話サービス契約とは別個独立のものであり、従って、本件のように電話加入契約者以外の者が有料情報サービスを利用した場合に、仮に情報提供契約の不成立その他の理由によって契約者が情報料債務を負わないとしても、原、被告間においては、有料情報サービス利用に被告の電話回線が使用された以上、契約約款一一八条によって被告に通話料債務が発生するものである。

さらに、右のとおり、原、被告間の電話サービス契約と、情報提供者、被告間の情報提供契約とは独立、無関係なものであり、本件で通話料が高額になった原因は、弟隆幸の長時間のまたは市外への電話利用によるものであって、有料情報サービス利用でなくとも生じることであり、情報提供者が情報料を請求できない場合に原告のみが通話料を請求できたとしても、何ら信義則に違反するものではない。

なお、原告は、有料情報サービス利用にかかる通話料のうち、情報料と分計できず、推定して算出した分については、それがなお正確でないということであれば、最低の基準料金である市内通話料金によって算出した料金(これによれば、一〇月分が三万五四六〇円、一一月分が八六一〇円となり、これに分計できた分を加えて六万七〇〇〇円となる。)の限度での有料情報サービス利用通話料を求めるもので、これによれば、過大な通話料を求めることにはならない。

2  被告の主張の要旨

(一) 契約約款一一八条の拘束力の不存在

原告は、平成二年七月から情報料回収代行サービス(通称ダイヤルQ2)を開始したが、契約約款はそれ以前に郵政大臣の認可を受けたものであり、有料情報サービスにかかる通話料は、以下のとおり、一般通話料とは異質なものであって、これについてまで郵政大臣の認可があるとはいえない。

即ち、一般通話に関する限り、市外通話であっても、その料金は低額に設定され、通常の利用による限り高額の通話料を負担させられるという不測の事態に陥ることはほとんど心配しなくてよいものであり、このため電話の公共性・公益性から契約約款一一八条の合理性を認めることができたものである。

しかるに、有料情報サービスは、極めて多額の通話料と引き換えに娯楽を提供するものであって公共性・公益性は認められない。

さらに、本件電話加入契約時においては、情報料回収代行サービスは存在せず、原告がかかるサービスを持ち込んだ時点でもその告示は店頭掲示のみであり、被告には、自らの加入電話によって、有料情報サービス利用の高額の通話料債務を負担するということは、全く予測できないことであった。

(二) 情報料債務との一体不可分性

原告の情報料回収代行サービスの開始が、電話による情報提供産業の創出、存続の不可欠の基盤となっているものであるところ、原告は各情報提供者との契約において手数料を徴収したうえ、有料情報サービス利用に伴い、利用時間に見合う通話料収入が得られる仕組みとなっており、しかも、現状では、情報提供者は原告との契約を締結しなければならないところから、原告が情報提供者を実質上支配下においているのであって、有料情報サービスは、原告主導の原告と情報提供者の共同収益事業であり、情報提供契約と電話通信が、情報料回収代行サービスを架橋として構造上一体化したもので、両者は不可分の関係にある。

従って、情報提供契約が不成立、取消、無効の瑕疵を帯びるときは、それと一体となった通信部分も法的運命を共にし、通話料は信義則に基づいて不発生または消滅すると解すべきである。

本件では、被告は、有料情報サービスを利用しておらず、被告と情報提供者との間には情報提供契約は成立せず、情報料債務は発生しない。契約約款一六二条には、契約者は、有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等からの場合はその加入契約者)が、提供者に支払う情報料等を原告が提供者に代わって回収することを承諾する旨の規定があるが、右条項は、原、被告間に適用されるものであって、被告と情報提供者間を規律するものではないうえ、文言からしても、契約者以外の者が有料情報サービスを利用した場合に契約者が情報料債務を負担することまで規定しておらず、契約者と情報提供者間の情報提供契約成立の根拠とはなりえないものであって、本件では被告に情報料債務は発生しない。

三争点に対する判断

1  前記認定のとおり、本件請求にかかる通話料は被告の電話回線の利用に基づくものであり、そのうち、有料情報サービスにかかる回線利用は被告の弟隆幸が被告に無断で行ったものであることが認められるところ、契約約款一一八条の存在については当事者間に争いがなく、関係証拠によれば、以下の事実が認められる。即ち、

(一) 原告は、テレホンサービス業者等からの、電話による営業に原告の電話料金回収システムを利用したいとの要望に応じ、有料での情報提供を可能にする情報料回収代行サービスを開発し、平成元年五月三〇日、付随サービスとして郵政大臣に届け出を行い、同年六月一日、別紙契約約款抜粋記載の契約約款第七節情報料回収代行一六二条ないし一六四条(但し、一六二条一項但書及び同条二項は、平成二年一〇月三〇日に追加変更されたものである。)を追加変更し、同年七月一日から右サービスを実施した。

原告は、右契約約款の追加変更については、全国の営業所等で店頭掲示によって告示している(弁論の全趣旨)。

(二) 情報料回収代行サービスの概要は、以下のとおりである。

原告及び電話加入契約者間においては、右契約約款の変更をもって、電話加入契約者から、原告が情報提供者に代わって情報料を回収することについての承諾を受けるとともに、原告及び各情報提供者との間においては、「ダイヤルQ2(情報料課金・回収代行サービス)契約」と称する契約を締結し、情報提供者が有料情報サービスを行うについて原告の電話回線網を使用させることを前提に、情報料の回収を原告が代行することを情報提供者において承諾するというものである。

これによって、原告は、各情報提供者から一番組毎に月一万七〇〇〇円及び回収代行を行った情報料の九パーセントを手数料として受け取るほか、有料情報サービスが利用されれば、一般通話と同様の基準(通話時間と料金表)で算出される回線使用料の増収を得ることになっている(〈書証番号略〉、弁論の全趣旨)。

(三) 有料情報サービスによって、これまで提供されてきた情報内容は、株式やスポーツ等の情報を提供するものから、栄養相談等のカウンセリングを行うもの、複数人が同時に会話を行う電話会議など多種多様に渡っている(〈書証番号略〉、弁論の全趣旨)。

2 以上認定の事実に照らして判断するに、原告の実施した情報料回収代行サービスは、それまで一般通話を目的としていた電話回線を情報提供者の有料情報の授受に利用させるものであり、これによって、情報提供者による電話回線網を利用した不特定多数者への有料情報サービスを可能にしたものであり、有料情報サービスは、電話情報料回収代行サービスの実施によってもたらされた電話回線の新たな利用形態というべきところ、情報提供者は不特定多数の利用者に情報提供を行うため必然的に市外回線の利用が増え、また、電話会議や娯楽番組等番組内容によっては必然的に電話回線の長時間利用や多数回利用を伴うこととなって、これを利用者からみるときは、その情報料のみならず通話料も容易に高額になるものであるが、この点に関する原告の一般利用者への告示は、追加変更した契約約款の営業所等での店頭掲示にすぎないというもので、有料情報サービス、とりわけ、情報料・通話料を含むその利用料金についての周知方法としては極めて不十分なものというべきである。

しかも、原告は、情報料回収代行サービス実施によって、それ以前の電話加入契約者も含め一律に有料情報サービスを利用できるものとしているが、有料情報サービスは、簡便に有用な情報を得られるという大きな利点を有する反面、その簡便さや娯楽性等故に、一般通話以上に、電話加入契約者の意思に反して他人に利用される危険が少なくないのである。

契約約款一一八条の拘束力が妥当とされるのは、一般通話を前提とした電話通信の社会生活における不可欠性等の公共性から、通話料の徴収対象者を一義的に確定して、徴収事務に要する経費を最小限に抑えることにより低廉な料金で通信役務を提供できるようにすることが電話通信の公共性に適うことによるものであると解されるところ、前記のとおり、有料情報サービスは一般通話と異なる電話回線の利用形態であるから、それに要する通話料負担を、通信のための電話回線の利用という共通点のみから、一般通話料と同様に解しなければならないという必然性はない。

むしろ、有料情報サービスには無断使用の危険も増大しているのに、これに対して、電話加入契約者に対する十分な説明や理解のないまま契約約款一一八条を適用するときは、その利用による情報料・通話料が高額化し易いことと相まって、原告が一方的に実施した情報料回収代行サービスによって、電話加入契約者を、何らの帰責事由も認められないまま、高額な通話料負担を強いられる危険にさらすことになって著しく不当というべきであり、契約約款一一八条は、有料情報サービス利用による通話料には、当然には適用できないものというべきである。

これを本件についてみると、被告は、原告が情報料回収代行サービスを実施する以前からの電話加入契約者であって、本件当時も情報料回収代行サービスの存在すら知らなかったというのであり、原告による情報料回収代行サービスの周知方法の不十分さからして、被告の不知はその責めに帰し得ないところ、有料情報サービス利用について契約約款一一八条が適用されることについて、被告の黙示の承諾も考えられない本件においては、契約約款一一八条の適用はなく、被告は、被告の了解なしに弟隆幸が利用した有料情報サービスについては、その通話料を負担しないというべきであり、原告の請求はその限りで理由がない。

よって、原告の請求は、有料情報サービス利用に係る通話料及びその消費税相当額を求める部分について理由がなく、その余の部分については理由がある。

(裁判官松尾嘉倫)

別紙料金目録〈省略〉

別紙電信電話料金内訳〈省略〉

別紙契約約款抜粋〈省略〉

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